経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

ステルスマーケティングによるブランド棄損。

前回までのエントリーでは,インターネット広告のもたらす効果効率への執着とインターネット広告そのものの仕組みの無理解が重なってしまうと,良かれと思ってやっているのに知らず知らずのうちにブランドを毀損してしまう可能性がある事を説明いたしました。

一方で,誰もがやるべきではないと理解しているのにも関わらず,なかなかなくならない手法の一つに「ステルスマーケティング」があります。

ステルスマーケティングとは

ステルスマーケティングとは,JIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)の用語集によれば「企業が自らまたは第三者に依頼して,消費者に商品やサービスの宣伝と気づかれない様に宣伝行為を行うもの」と説明されています1。あるメディアや団体,あるいは個人が相応の報酬を得ているのにも関わらず,報酬得ていない公正な立場から評価をしたり,推奨をしたりすることを言い,この行為は結果的に消費者を欺き判断を誤らすと同時に,情報や評価の信頼性を失わせることになるのです。

ここでいう報酬とは金銭的なものばかりではなく,物品やサービスの無償提供あるいは優先的な利用なども含まれます。さらに,口コミの団体であるWOMJ(WOMマーケティング協議会)の口コミマーケティングガイドラインでは「関係性の明示 」に言及しており,「関係性がある場合には、情報発信者に対し原則として関係性明示を義務付けなければならない」と定めています2。
したがって,ステルスマーケティングは報酬を受けての発言や評価の是非が問われているのではなく,あくまでも報酬を受けたことを明示しているか否かが焦点となっているのだと言えるでしょう。

なぜメディアと広告への信頼性は低下したのか

それには近年の消費者の持つ情報流通経路の変化やその量が増大しているという点が大きな要因となっているといえます。
まず,消費者のメディア接触時間がマスメディアからデジタルメディアに大きく変化してきています3。また,デジタルメディアでの利用サービスの内訳を見るとSNSの利用が多く,ニュース情報を得るためにソーシャルメディアを頻繁に利用する割合が増えています4。

さらに「広告よりも口コミを信用する」という人の割合も増加しているという調査結果もあり5,広告を情報源として利用している人の数は減少しており,CM信頼感も下がっていると言った調査結果もあります6。
これらのことを総合的に判断すると,企業の考え方として「情報量が爆発的に増えている中で,企業の宣伝だと思われてしまうとその情報は信用されないのではないか」「消費者には受け入れてもらえずに拒否されてしまうのではないか」と言った広告活動の信頼性に対して疑念が生まれている可能性が大きいのではないでしょうか。

ここでは,広告の信頼性が低下している原因やその信頼性を復活させるための議論は省きますが,「信頼性のあるマーケティング活動」という概念は今後のマーケティングに携わる関係者にとっての大きな課題であると言っても差し支えないでしょう。

報酬を支払った事を隠したいと思う理由とは

では,「なぜ口コミが広告よりも信頼される」のでしょうか。クチコミが消費者の意思決定に強い影響を与える理由の一つは,企業によってコントロールされていないため,情報の信頼性が高いことにあるのではないかと考えられています7。つまり,「広告は企業と利害関係がある為に,企業に都合の良いことしか書いていない」と考えており,その一方で,「友人や口コミの情報は,企業利害関係がない為,それは純粋にその人の意見でありある。騙す必要もないので,情報としては信頼することができる」と考えられるのです。

したがって,消費者は「企業によってコントロールされていない情報」「企業との利害関係のない情報」に大きな影響を受けるのだといえ,だからこそ,何か商品に関しての情報を提供するときには,知らず知らずのうちに企業がその情報提供に関与しているということを隠しておきたい,良い評判を生む情報であればそれは消費者の中から自然発生的に生まれてきたものだという体裁にしておきたいという意思が働いてしまうと言えるのではないでしょうか。
逆の言い方をすると,企業の依頼による情報であることがわれば,その影響は低下するのではないかと考えてしまうのです。

ステルスマーケティングによる信頼の崩壊

ところが,利害関係はないと思っていたのに利害関係があった場合,どのようなことが起きるでしょうか。その場合,信頼性の基盤が一気に崩壊していくことは想像するに難しくはないでしょう。では,バレなければ良いのか?というと,その企業の本来の経営理念やビジョン,社会的倫理規範の問題になってきます。その企業は,消費者の参照する商品情報と企業との関係性という重要な事項を開示しないのですから,消費者に対する偽りや詐称などと同等の行為を常に行っている企業であるという印象すら消費者に与えてしまう事になります。
それは決して,「黙って宣伝すればいい」「バレなければいい」「小さい金額だから黙らせておけば良い」と考えるレベルのものではない,ということではないのです。

ステルスマーケティングという行為は,ブランドへのダメージのみならず企業理念やビジョンに対しての毀損にまでつながる行為なのです。

(参考)
1.JIAA『インターネット広告掲載に関するガイドライン集/基本実務・用語集』(2020)
2.WOMJガイドライン https://www.womj.jp/70699.html
3.株式会社博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査」
https://mekanken.com/mediasurveys/
4.デロイトトーマツグループ「デジタルメディア利用実態調査」https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/technology-media-and-telecommunications/articles/md/digital-media-trends-survey.html
5.ニールセンカンパニー合同会社「消費者が最も信頼する“広告”は、友人からの推薦、次いで企業サイト」 https://www.nielsen.com/jp/ja/press-releases/2015/nielsen-pressrelease-20150928/
6.幻冬舎GOLD ONLINE「衰退するマス広告 テレビの「信頼度」は50%を切っている」https://gentosha-go.com/articles/-/18600?page=2&per_page=1
7.濱岡豊『クチコミ・プロモーション効果の規定要因』マーケティングジャーナル Vol.32 No.1(2012)

田村 修

Digital Life Lab. 
田村 修

獨協大学経済学部経済学科卒業 東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻課程終了(技術経営修士/MOT) 大学卒業後,総合広告会社に入社。11年の営業を経て、インターネット広告メディアレップのスタートアップメンバーとして出向。インターネット広告初期より広告メニューの開発・営業・メディアプランニングに携わる。現在は,デジタルマーケティングエージェンシーに在籍しながら,多方面にて活動中。 東京理科大学大学院 経営学研究科講師(非常勤)、 専修大学兼任講師、産業能率大学兼任講師、東京通信大学兼任講師。 著書: 単著:田村修「いちばんやさしいデジタルマーケティングの教本」インプレス(2017) 共著:JIAA篇「必携 インターネット広告」インプレス(2019)

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