経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

効率化と利便性の追求に潜むブランド毀損の罠。

広告配信の仕組み

前回のエントリーでは,インターネット広告では広告効果を確認しながらよりよい成果を求めて改善を行なっていく「広告運用」というスタイルがメインになることを説明しました。そして同時に,「広告運用」において広告効果を数値のみで判断してしまうと,広告の掲載面に対する配慮がおろそかになる場合があり,それがブランド毀損につながってしまう危険性を指摘しました。

しかし,一方で「メディア側が不適切と思われる広告掲載面をあらかじめ排除しておけば,ブランド毀損の問題は起きないのではないだろうか」といった疑問も存在するでしょう。

実は,インターネット特有のコンテンツの進化や,ネット広告特有の広告配信の仕組みが問題を複雑にしています。

インターネットメディアの歴史

インターネット広告は,1994年10月27日に雑誌Wiredのオンライン版HotWiredに横長のバナー広告が掲載が始まりだと言われています。この時には,現在行われているような複雑な機能はなく,単純にそのページにアクセスする度ごとにバナーが差し代わり,クリックすると指定されたURLへとリンクするだけのシンプルなものだったと言われています。

一般にインターネットメディアへの参加ハードルは低く,基本的なサーバーと簡単なプログラム言語の知識さえあれば個人でも自分自身のサイトを比較的容易に,かつ自由に立ち上げることが可能です。それゆえ,当初から個人ならびに事業規模を問わずに多くのサイトが立ち上がり,多くのメディアとして様々なコンテンツを提供するサイトも登場しました。

個人での情報発信はブログやソーシャルメディアの登場以降に本格化しますが,インターネット上にあるサイトは,マスメディアのように企業がコンテンツをきちんと編集・管理しながら提供するケースと,個人が自らの裁量で自由にコンテンツを提供するケースが当初より混在していました。そして,個人がコンテンツを提供しているサイトにも「広告」が掲載されていることが,広告における掲載面管理の問題を複雑にしているのです。

メディア収益としての広告とその管理の仕組み

ネット上に登場した新たなメディアは旧来の紙メディアの販売と異なり,コンテンツを直接販売するビジネスモデルを構築するのは課金システムの課題もあり難しいものでした。そのため,広告で事業収益を得ることがいちばんの近道である考えられ,メディアは自社のコンテンツページに複数の広告を掲載し収益化を図り始めます。

基本的に,Webサイトの広告は「アドサーバー」と呼ばれる広告専用のサーバーで,メディアのコンテンツとは別々に管理されています。初期のアドサーバーは,一つのサイトの中に掲載される広告の掲載期間や回数,クリック数を管理し,レポーティングするシンプルなものでした。(図-1)

しかし,多くのWebメディアでは自社でアドサーバーを開発し自ら管理することは,技術開発,広告の販売と管理,コンテンツ制作等サイト運営上からもその負荷は相当大きいものでした。そのため,アドサーバーを専門に開発する企業が広告管理機能の高機能化とともに複数のWebサイトの管理を行えるようにすると,Webサイトの広告管理運営を受託する新たなビジネスモデルが登場します。

それはアドサーバーが独自にさまざまなWebメディアをネットワーク化し,それを新たなメディアとして広告販売するものでアドネットワークと呼びます。

アドネットワークの概念アドネットワークでは,独自にネットワークしたサイトをブランドの垣根を越えてコンテンツカテゴリーや閲覧ユーザーのプロフィールなどで再カテゴリー化し,それを広告メニューとして販売する事を可能としました。広告主からみると一つのメディアを個別に選別しながらに広告を掲載するよりも,簡単にかつ効率的にターゲットとなる読者を集めて訴求することができる,という新たなメリットがあります。(図-2)

この仕組みが人気を集め,ビジネスとしての多くのアドネットワークが登場し始めますが,その中には余剰の広告在庫を抱えるアドネットワークや,逆に販売量に対して広告在庫が不足するアドネットワークが出てきます。そのため,広告の在庫をアドネットワーク間で相互に融通するというアドエクスチェンジという考え方が登場します。

アドエクスチェンジの功罪

つまり,Aというアドネットワークが自社の抱えている広告在庫以上の広告販売を行ってしまった場合,不足している広告在庫をBという別にアドネットワークから調達するといったビジネス取引です。相互に自社の抱える広告在庫を融通し合うことになるのでアドネットワークのマネジメントとしては安定していくことになりますし,広告主から見ると一つのアドネットワークと契約するだけで,アドエクスチェンジを通じて世界中どこのWebメディアの広告スペースが購入できるようになります。一見いいところづくめですが,その反面,在庫の相互交換はコンテンツ内容や閲覧ユーザーのプロフィールデータなどから関連づけされて自動的に行われますので,世界中のどこのWebメディアに出るのかは事前にはわからないという状況が生まれてしまうのです。(図-3)

アドエクスチェンジの概念

上記の図で言えば,アドネットワーク-Aという企業のサイトが中心のアドネットワークに広告発注をしていても,アドエクスチェンジの結果アドネットワーク-Bという個人のサイトに広告が配信されてしまう可能性が出てくるのです。しかも,効果効率を重視して広告配信を行った場合,アドネットワークは自動的に効果の高いサイトに集中して配信するので「広告はどこに出るのかわからないが,広告出稿の成果は出ている」という状況が生まれます。

この状態を広告出稿の効率視点でみて「良い」とするのか,それとも(コストがかかっても)自社の広告がどこに掲載されているのかまで把握するべきであると考えるのかの考え方の違いが,ネット広告におけるブランド毀損をどのように捉えるのかの転換ポイントとなるといえるでしょう。

田村 修

Digital Life Lab. 
田村 修

獨協大学経済学部経済学科卒業 東京理科大学大学院 経営学研究科技術経営専攻課程終了(技術経営修士/MOT) 大学卒業後,総合広告会社に入社。11年の営業を経て、インターネット広告メディアレップのスタートアップメンバーとして出向。インターネット広告初期より広告メニューの開発・営業・メディアプランニングに携わる。現在は,デジタルマーケティングエージェンシーに在籍しながら,多方面にて活動中。 東京理科大学大学院 経営学研究科講師(非常勤)、 専修大学兼任講師、産業能率大学兼任講師、東京通信大学兼任講師。 著書: 単著:田村修「いちばんやさしいデジタルマーケティングの教本」インプレス(2017) 共著:JIAA篇「必携 インターネット広告」インプレス(2019)

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