経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

企業文化をつくるマネジメントが、ブランド実践™を起こす。

【働きがいこそ、ブランド構築 後編】

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ブランド構築に関して、その数多くの書籍や論文は広告宣伝を中心としたコミュニケーション分野を中心に発展してきた。しかし今日のブランド論を形作ったアーカーの言うブランド構築の本質が、まずは従業員への理念の社内浸透と捉えると、ブランドのビジョンが一人ひとりに「腹落ち」することが重要になってくる。理念浸透がブランド構築、すなわち長期的な利益につながることが数多くの調査でわかってきている中、従業員と会社の方向性をどう揃えるのかという根源的な問いに対して、アドラー心理学の観点からこれを解き明かそうと迫っているのが嶋尾かの子氏。その方法論や最新の研究について聴いた。

 

聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城

 

強いチームにあるのは自己犠牲ではなく、自己決定。

——–ブランド・プラクティス™(ブランド実践)の基盤になるアドラー心理学の概念について、もう少し詳しく教えてください。

「共同体感覚」=チームワークと捉えると、強いチームをつくるベースにあるものがメンバー同士の「信頼」、「尊敬」、「共感」ということになります。これがないと、お互いに批判や攻撃ばかりになり、よりよいコミュニケーションがとれないことになります。ここ数年はよく企業における多様性という言葉が出てきますが、結局この3要素がないことには、多様性は起こりえません。個人レベルで考えると、実は多様性はなかなか容認しにくいものなのですが、組織の多様性を実現するには、一人ひとりが俯瞰した目で多様性をとらえていくことが必要になってきます。それを実現するためのベースが「信頼」、「尊敬」、「共感」なのです。そして強いチームに特徴的なのは、「自己犠牲」ではなく、「自己決定」です。これは、一人ひとりが自分自身で決断して前に進んでいくことができるということ。一見、外からは自己犠牲に見えることが、実は自分で納得して「チームのために、自分のために」決断しているということが起きます。野球で例えれば、監督のサインで送りバントをしたのではなく、自分の判断で送りバントを行い、ランナーを次の塁へ進めることがあると思うのですが、まさにその場面のことを言います。また組織を率いるリーダーの立場に立てば、「信頼」、「尊敬」、「共感」が部下とあることで、部下の強みを理解し、引き出すことにもつながりますし、リーダーが一人ひとりの能力を最大限活かすことにもつながります。

 

「なんのために」=目的でマネジメントする。

——–自己犠牲ではなく、自己決定という言葉がありましたが、誰かのせいにして、言い訳にしがちな組織が多い中で、本当にそのようなことが起こせるのでしょうか。

アドラー心理学では「自己決定性」という考え方があり、年齢など関係なく、人は変われる、という考え方があります。アドラー自身も「死の2日前まで人は変われる」と語ったほどです。これからの未来はすべて自分次第という考え方で、成功する経営者に多い思考かもしれません。「しょうがないから」、「いやいや、やった」ことだとしても、その選択は結局、自分自身でしたこと。アドラー心理学では、何らかの選択には目的があると考えますから、後ろ向きな行動でも、その選択をすることがその人にとって都合のいい「目的」があってこそと考えます。では、どうしてそのような後ろ向きな選択になってしまうのでしょうか。例えば部下がミスをしたときに「なぜミスを起こしたんだ!」と原因を探ってしまうと、部下は萎縮してただ「すみません」と語るばかりになり、自分以外の状況、例えば「忙しかったから」、「あの人の提出が遅れたから」など他責の理由ばかり挙げることになってしまいがちです。過去の原因を探ろうとするのではなく、「何のためにそれをしたのか」という目的を探ることで、「今後はどうすればいいのか」という、建設的かつ未来志向に自然となっていきます。

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ブランド力は、日々のマネジメント次第。

——–つまり「目的論」で考え、「信頼」、「尊敬」、「共感」のある組織であれば「共同体感覚」=チームワークが生まれ、強い組織になる、と考えられますね。

その通りです。企業の目的は会社の理念(=ビジョンやミッション)そのものです。これに一人ひとりが共感し、働くことで、自分の働く価値観やキャリアの方向性と合致しやすくなります。結局理念をつくっても、個々人にそれが腹落ちしなければ、まったく意味がありません。個人の働く価値観やキャリアを一緒に見つけ出していくことも、ワーク・エンゲイジメントを高める上で、とても有効でしょう。その上で、その価値観をお互いが尊敬し、信頼しあって働いていく。そうすればおのずと強い組織になります。これがさまざまな会社内の指標を高め(※前編)、活躍人材を生み出すことに繋がり、企業の業績を押し上げていくのです。今はこれらの仮説を理論的に実証し、具体的にブランド・プラクティス™(ブランド実践)を引き起こす企業内のポジティブな文化はなにかを研究している段階です。これから副業OKの会社が増え、個人事業主も増えていくと考えられます。ひとつの企業に縛られない人が増え、企業は同じ思考の人が集まる「コミュニティ」になっていくでしょう。採用難がなお続いている中で、企業の目的(=理念)への共感という考え方が、人材確保には大きく影響していくはずです。仲間がいなければ、組織は大きくなりません。それは戦国時代であっても、現代であっても同じです。アドラー心理学をブランディングに応用することで、企業や事業の規模に関係なく、自分たちの日々のマネジメント次第で、ブランド・プラクティス™を引き起こし、ブランド力(=業績を上げる)ことにつながっていくと考えています。

(おわり)

嶋尾かの子

 
嶋尾 かの子

大手コンサルティング会社マネージャー。大阪府大東市出身。大阪芸術大学大学院博士課程修了。芸術文化学博士。思春期真っ只中の中2男子、中1女子の2児の母。子育て中に出会ったアドラー心理学の学びを深め、全国で講演、講座を開催。これまで1000人以上に自身の経験を踏まえ、子育てや女性のキャリアについてアドラー心理学の観点から伝える。その後、むすび株式会社にてブランディング・ディレクター。アドラー心理学をブランド論に応用し、ブランド・ビジョンを効率的に社内に浸透させる新概念「ブランド・プラクティス™(ブランド実践)」理論を構築、日本マーケティング学会にて発表。戸板女子短期大学講師。アドラー心理学講師。日本個人心理学会、日本マーケティング学会会員。日本ブランド経営学会理事。日常会話レベルで話せる言語は、英語、ラオス語、タイ語、大阪弁。

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