学習院大学経済学部教授 青木幸弘 【選ばれるブランドになるために】
第1回
ブランドとは何なのか。さまざまな解釈、考え方や方法論があるが、どういうアプローチを経ても、選ばれなければ「ブランド」にはなり得ない。消費者行動論の見地からマーケティングやブランド論を研究し、ブランドに関するさまざまな著書を持つ、学習院大学経済学部経営学科教授の青木幸弘氏に、選ばれるブランドとは何かを聴いた。
どのようにすれば、選択されるブランドになるのか。
——「ブランド」というと、とても難しい理論で、かつ人によって解釈も違うように捉えられがちです。
「ブランド」とは消費者にとって、商品選択の「手がかり」になるものです。世の中には常にいろんな選択肢が存在します。では、消費者にとって何がその「手がかり」になり得るのか、が「ブランド」を解き明かす出発点であると考えています。そう考えると、「ブランド論」の始まりは意外と古く、マーケティン論の発生とほぼ同じくらいと考えて良いでしょう。1879年にP&Gのアイボリー石鹸が世の中に登場して、消費者にとって「ブランド」になった事例がよく出てきますが、それが今日的な「ブランド」問題の登場と捉えてよいと思います。本格的にブランドの問題に光が当たったのは、1990年代、アーカーがブランドの資産的な価値に着目した、「ブランド・エクイティ論」を上梓してから、日本でも盛んにブランド論が議論されるようになりました。消費者が持っている、ブランドへの知識のありようによって、選択されることもあれば、されないこともある。では、どのようにすれば選択につながるのか?それがブランドを考える上での正攻法だと考えています。
ブランドはまず、知ってもらわなければ何も始まらない。
——ブランドにまつわるイメージを「ブランド連想」と呼びますが、どのようにすれば、「いい連想」をつくれるのでしょうか。
アーカーが提唱した「ブランド・エクイティ」に、認知、知覚品質、ロイヤルティ、連想と大きく4つの柱があります。その中で、連想は消費者の知識構造に当然、影響を及ぼします。もちろん連想は、プアなものよりもリッチなほうがいいに決まっています。しかし、大前提として、ブランド名を知ってもらわなければ消費者の頭の中に連想は生まれません。そして、消費者がその「ブランド」に触れたり、考えたりした時に、必ずしもたくさんのことを思い出さないといけないというわけでもありません。ただし、消費者の「選択」につながるような、イメージである必要があります。そして競合他社の「ブランド」よりも、ユニークなイメージのほうがいいのです。これがいわゆる「強くて、好ましくて、ユニーク」なイメージというイメージ形成のポイントです。このことに、企業や事業の大小は関係ありません。なぜなら、大企業でも事業単位で見れば、中小企業よりも小さな予算でブランド管理を行っている部署もあります。ブランドの形成にとって、事業の大小ということはあまり関係ないと考えています。
ターゲットの明確化は、市場を狭めることではない。
——ターゲットを明確化し、訴求することは予算の削減にもつながると考えますが、なかなか多くの日本企業はそれを行おうとしません。
おっしゃるように、ターゲットを絞ることは必ずしも、市場を狭めるということではありません。狙って行く市場が狭まるということではないのです。ターゲットを絞る、という表現が誤解を生むのかもしれませんが、ターゲットは「明確化」する必要があるということです。誰に対してブランドを届けるのかという焦点がぼやけたままだと、明確な方向性を持ったマーケティングはできないということです。ここ最近ではターゲットを人物化した「ペルソナ」を描くことが主流になっていますが、よりシャープなマーケティングをしていく中心に、ブランド戦略があると捉えています。ターゲットを明確化すれば、その人にどんな価値をブランドがもたらすか、という思考にもつながっていきます。「いいモノ」を市場に届ければ、売れるという時代から、「コト消費」とも言われ、そのブランドの使用経験の価値に人はお金を支払うようになっていきています。だからブランドを送り出す企業側は、自分たちの商品が、人の生活にどんな価値をもたらすのか、までしっかりと考えていかなければならないのです。
第3回「自社の何がブランドなのか意識すること。それが強いブランドをつくる。」
第2回「誰のためのブランドか、明確でなければ、共感は生まれない。」
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して弊社は一切の責任を負いません。