2019年2月21日(木)の19時半から、日本ブランド経営学会Salon #8が開催されました。ブランディングに関して実績のあるゲストを招き、月一回ペースで開催しているこのサロン。第8回目のテーマは「ブランド構築に効くコピーライティング」です。
SNSやオウンドメディアなど、企業の情報発信機会が増えるなかで、コピーライティングは一つの素養とも言っていいほど、重要なスキルになってきていると思います。
今回の日本ブランド経営学会サロンは、一際の盛り上がりでスタートです。
ライトニングトーク:言葉の巻き込み力
冒頭のライトニングトークにて登壇したのは、採用ブランディングコンサルタントとして活躍している山口達也さん。
「言葉の巻き込み力」をテーマにして、音楽サービス「Lytory」をコンサルティングした事例をお話してもらいました。
Lytoryは、音楽に歌詞などをつけて30秒程度のリリックビデオをつくってコミュニケーションがとれるサービスです。
歌詞に対する共感をリリックビデオでシェアすることで、新しい友達を見つけたり、お気に入りの一曲を見つけたりすることができます。
新しいコンセプトをもってリリースされたこのサービスですが、Lytoryの社長は「アプリにこめた思いが仲間に伝わらない」という悩みを抱えていました。そこで、山口さんはLytoryの思いを伝えられるような「巻き込み力」のある言葉を紡ぐために、社長の原体験を掘り起こすワークアウトを開始しました。
山口さんが、巻き込み力のある言葉を紡ぐうえで、重要視しているのは会社の原体験です。「なぜこの会社が存在するのか?」という問を15回ほど繰り返していき、根源的な意味で起業のきっかけとなる体験を掘り起こしていきました。
結果として、この社長は「音楽を通じて他人との共感を育んだ経験」が背景にあることがわかりました。この体験をベースに、周りを動かすためのキーワードを山口さんは策定していきました。
原体験を掘り起こす作業は、自分でもできますが、山口さんが言うには「無意識に気づかないといけないので、第三者の指摘を受けながら気づきを掘り下げていくことが効果的」だそうです。
サン・アド古居さんのトーク:企業メッセージ策定の実務
今回は、サン・アドの古居利康さんがメインとして登壇してくれました。
エグゼクティブディレクターとして活躍する古居さんの仕事のなかではサントリーの「水と生きる」というコピーが有名です。
「水と生きる」など、企業メッセージとしてのコピーの制作経緯をお話いただきました。
■水と生きるのケース
実は、企業メッセージとして広まる前から「水と生きる」は、環境広告の一環として使われていました。
企業メッセージを定める際に、サントリー社長の旗振りもあり、既に浸透している「水と生きる」を軸にしていくことが決まりました。
しかし、環境広告のコピーをそのまま企業メッセージに使えるわけではありません。
これが難しいところです。
なぜなら、環境広告が想定している以上の、企業活動の全てに通底した言葉でないと、現場で使えない企業メッセージになるからです。
そこで、古居さんが「水と生きる」を企業メッセージとして定着させるために行った施策は、「やってみなはれ」「三方よし」といったサントリーならではの考え方と、「水と生きる」という言葉の結びつきの論理を考えていく作業です。
これはやってみてわかったことだそうですが、意外とこれまでの考え方と、新しい企業メッセージは結びつきが強いことがわかって、上手くいったそうです。
■不二製油
不二製油は、BtoB企業なのでご存じない方も多いのですが、実はハウス食品のような大手メーカーに肩を並べる食品素材メーカーです。
BtoBではロジカルにこれまでの実績にもとづいて事が決まっていくものの、新卒採用にあたって、端的に企業イメージを伝える言葉が必要だと言うことで、企業メッセージ策定のプロジェクトが古居さんに託されました。
このときには、古居さんはむりに新しい言葉をつくろうとしませんでした。
歴史有る企業だからこそ、「そもそも」のところに目を向けたのです。
その結果「不二」とはどのような意味なのかということを、企業メッセージとして伝えていくソリューションが導き出されました。
既存社員にとっても、自社の存在意義を問い直す意味で、とても有意義なプロジェクトになったそうです。
■アントレ
アントレはリクルート社が出している起業系の雑誌です。
創刊時の20年前とは、起業をとりまく状況が大きく変わっています。
そのためブランドメッセージが、ターゲットに刺さらなくなっている問題がありました。
かつては「雇われない」という点にスポットをあてていましたが、それは起業が才能やセンスによるものだと思われていた時代の話。
今は普通の人も起業をしています。
そこで「独立でも頼ってもいい」という考え方を伝えるように変更していくことで、新しい読者にも受け入れられています。
最終成果物としてのコピーよりも大切なこと
古居さんの話のなかでも面白かったのは、「コピーライティングは自分でもできると思っているお客さんがたくさんいる」という事実です。ただ、コピーライティングの実務では、それまでの考え方との整合性をつくっていく地道な作業が必要です。見た目だけのかっこいい言葉がコピーライティングではないということを考えさせられるトークでした。
さて、次回の日本ブランド経営学会サロンは、3月27日(木)の19時半から、渋谷Hoops Links Tokyoにて開催です。
テーマは「ブランド価値と経営戦略」。インターブランドにてエグゼクティブディレクターを務める薄阿佐子さんが登壇します。
カタチだけのブランドではなく、無形資産となるブランドづくりを考えるうえで、とても有意義な回になりそうです。
文/撮影:長尾和也
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