【土田酒造のブランド論】第3回
群馬の山深い場所に、土田酒造はある。1907年創業。200年、300年続く蔵の多い中で、日本酒の世界では新しい部類に入る。しかし戦前にはすでに当時の日本酒品評会(現在の日本酒鑑評会)で何度も連続で入賞し、名誉賞を授与されるまでになっている。当時は今の数倍の酒蔵数。激戦だったことは計り知れない。現在でも積極的に海外賞にチャレンジし、数多くの受賞を果たしている。昔ながらの「生酛・山廃酵母」にこだわる酒造り。世界から評価を受けているその技術や根底にある考え方はなんなのか。6代目蔵元の土田氏に聴いた。
聞き手・文:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
山廃は、技術を突き詰めれば、必然の流れ。
——純米かつ山廃だけでつくる宣言は、お付き合いのある酒販店のみなさんの反応はどうでしたか。
すべての酒を純米かつ山廃で行うということをいつもお付き合いのある販売店さんを集めて宣言したときは、そうとうな反発がありました。値上げもしましたから。でも実際に飲み比べてもらって、これまでの生酛や山廃づくりの酒の印象がガラッと変わったみたいで、「これならいい」というふうになってくれました。おそらく私の予想では、このやり方が主流になっていくのではないかと思っています。このやりかたが広まれば、これまで山廃に悪いイメージを持っていた日本酒好きな人にも満足してもらえるし、日本酒の入門編としてもとてもいいお酒になっていけるんじゃないかと思っています。技術を突き詰めていくと、生酛系に必然的にたどり着くと思うんですよ。まさに日本酒のルネッサンス的な発想です。そしてウチみたいな小さな蔵が「山廃と速醸もやっている」じゃやっぱり弱い。それは他でもやっていますから。「山廃だけしかやりません」の方が印象が強いでしょ。覚悟も伝わります。
突き詰めるほど、神に祈るような気持ちになる。
——技術にこだわり、自然の菌にこだわる、それが土田酒造の酒造りですね。
自然由来の菌だけに頼ることで、食品に対する要求度が高まっている現代にもマッチする方法だと思うんですよね。また神との接点がある日本酒づくりにとっても、その神秘的な感じがまたイメージと合うと思うんです。そしてこの発酵させる技術こそ、日本酒づくりが古来から培ってきた方法。ここにこそ、日本酒のストロングポイントがありますし、世界に誇れる日本の技術の粋だと思うんです。だからお米にこだわるのは大切ですが、日本酒はワインではないし、こういう特徴もせっかくあるんだから、私たちはお米以上に技術にとことんこだわっていきたいと思っています。それが土田酒造のDNAだと思いますしね。面白いもので、菩提酛や山廃の日本酒づくりを突き詰めるほど、神に祈るような気持ちになります。科学的な方法を追求しているはずですが、そうなるんです。昔の人たちも、こんな祈るような気持だったのかなあ、と思うこともありますよ。
失敗からイノベーションと違いが生まれる。
——技術を突き詰めるほど、神に祈る気持ちになる、というのはとても興味深いお話です。
昔の蔵人の役割に、酛屋(もとや)という役割がありました。それは24時間、つきっきりで管理するから。よく使われる速醸という方法では、じっくり見ていなくても終わります。私たちはこの技術を追求することで、安定しておいしい山廃仕込の日本酒をつくる一方で、酒造りの心は昔の人のように、神に祈るようにつくる。そうありたいと思っています。そのマインドを持ち続けると、タンクは隅々まで洗わなきゃいけないとか、手を一切抜けないんです。昔は木桶でしたから、ちょっとした洗残しが命取りになるかもしれない。だから今以上に神経をつかったはずです。「神は細部に宿る」といいますが、まさにその気持を大事にしたいですね。そしてこのつくり方が広がれば、自分たちだけの、今年の1本がつくれるはずです。あなたの菌がつくった酒。しかもその年限定です。来年はまた違う味わいをくれます。これを広げていきたい。そしてこのつくりかたは、今でも失敗の確率が高い方法です。私たちも何度も失敗を繰り返してきました。でも失敗がイノベーションを生むと思います。失敗から違いを生みだし、群馬の山奥から、世界に日本酒のおいしさを広めていきたいと考えています。
(おわり)
土田祐士
株式会社土田酒造 代表取締役
専門学校を経てカプコンへ。ゲームづくりに従事する傍ら、休日に酒造りを手伝うようになり、28歳で蔵人へ。杜氏も経験し、現在は蔵元に。速醸での酒造りではなく、生酛系の山廃仕込みでの酒造りにこだわり国内外で数々の受賞を果たしている。
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