山梨学院大学現代ビジネス学部教授 今井久
【地域活性化の課題と実践 第3回】<最終回>
経済学と医科学の博士号に、MBA。地域経済を対象に研究を行い、地域活性化への取り組みや提言など、ユニークな活動を行う今井氏。山梨県には、県庁所在地である甲府のドーナツ化現象、近隣市町村の過疎化、人口減など、全国の多くの市町村が抱えている問題が潜んでいる。現場での徹底したリサーチや地域活性化の取り組みで培った経験をもとに、今井氏に地域活性化の課題や解決策などを聴いた。
地域経済を大きなうねりにする必要性の是非。
——–地域活性化への取り組みを大きいうねりにしていくためには、どのようなことがきっかけになりそうでしょうか。
いろいろな団体や自治体が地方創生の流れに乗ってやろうとしていますが、自治体に頼ってだけいてもダメでしょうね。自治体はいろいろな取り組みを行います。例えば、シンポジウムとか開きますが、やっぱりそれを汲んで、一般の人たちや企業の人たちが頑張らないと。ビジネスに関しては、企業のみなさんのほうが専門家ですからね。もちろん、法的な面で自治体に頼ることはあるとは思いますが…。それから、エシカル消費的な流れも追い風になり得るでしょう。地域の中でいかにヒト・モノ・カネを回す仕組みをつくれるかが、今後の乗り越えるべき課題になるでしょう。最終的には、それらの消費に価値を見出す消費者を育てなければ、経済が回っていきません。そうなってくると、地方の経済にうねりが生まれてくる可能性はあります。しかし、その一方で、地域経済の中で必要なものはそのうねりだけなのか?という議論もあります。ある程度のお金があって、自分らしく暮らす生き方が田舎にある、という考え方です。社会疫学的な観点から見れば、ソーシャル・キャピタルが豊かであると、十分幸せに暮らしていけそうです。
成熟とは何か。人の心の問題につながっている。
——–つまりそれは地域活性化の大きさの定義も問題にもなりそうです。
20世紀における経済活動の規範は、競争であり、効率化であり、生産性の向上でした。その結果、環境破壊、経済格差、貧困等、様々な社会問題を生んできました。これからの経済活動においては、共生、生きがい、環境、地球にやさしい等、新しいコンセプトが必要になってくるのではないでしょうか。この点においては、「パラダイムシフト」が起こっていると考えています。経済成長は重要ですが、社会が成熟していくことも重要です。何をもって成熟なのか、ということに関しては、人の心の問題になってくるかもしれません。いかに満足して、そして、いかに幸せに暮らせるか。そういうところを目指すのも地域活性化ではないかと思います。地域活性化というと、経済成長ばかりがクローズアップされますが、それだけが論点になるわけではないかな、とも思います。ただ、ちょっと前までは、こういう考え方はなかなか共感を得られなかったのも事実です。例えば、成功して六本木ヒルズに住むことに、多くの人が成功の意味を見出だしていた時期もありました。しかし、バブルが崩壊し、リーマンショックが起き、東日本大震災が起きて、人々の価値観が少しずつ変化してきました。ソーシャル・キャピタルの重要性も叫ばれてきました。以前は、山梨の無尽はネガティブな印象を持たれていたと思います。しかし、最近では、その文化そのものが「いいもの」へと再評価されてきています。
ソーシャル・キャピタルは地域活性につながる。
——–従来の地域活性化や今井先生のお話を総合すると、地域の人たちを巻き込めば巻き込むほど、経済的にも、心や健康的にも豊かに地域を活性化できそうです。
ソーシャル・キャピタルが地域を豊かにすることは、たくさん実証されています。このソーシャル・キャピタルですが、基本的には二種類に分類されます。橋渡し型と結束型です。前者は趣味や興味など、比較的緩やかな関係でつながっているケースです。一方、後者は、例えば地縁血縁です。後者のように地域内で結束しすぎると、村八分とか、監視し合うとか、地域の負の側面が出てしまう傾向にあります。人々の健康や幸せに有効なのは、橋渡し型のソーシャル・キャピタルです。これは、地域の課題解決にも有効です。例えば、行政・ファシリテーターなどを活用して地域問題・課題への気づきを高め、ワークショップなどにより住民間・組織間の交流により、意識の変化を促すことができます。その上で、地域内外の支援も含めた地域全体での地域再生の運動を行うこともできます。また、山梨県内の経営者を対象にしたビジネス交流会などであれば、「地域の経営」という切り口で興味の一体化が図れます。そこから新しいビジネスが生まれるかもしれません。私自身としても、今後さらに突っ込んで、ソーシャル・キャピタルがそこに住んでいる人たちの幸せにどう結びついているのかを研究していきたいと考えています。
(おわり)
聴き手・構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:大堀力
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