求職者は、求人票だけを見ていない。

「給与や休日を良くすれば応募が増える」「若い世代は会社の理念を重視している」「今はSNSをやらないと採用できない」。
採用については、さまざまな説があります。では、実際の求職者は企業の何を見ているのでしょうか。最近の調査を見ると、給与や休日などの条件は依然として強く見られています。一方で、社風や社員の雰囲気、働き方、企業の安定性、自分が成長できる環境なのかといった情報も、会社を選ぶ判断材料になっています。さらに変化しているのは、求職者が求人票だけを見て判断しているわけではないことです。
採用サイト、動画、SNS、社員の発信など複数の接点から情報を集め、「実際はどんな会社なのか」を確認するようになっています。この記事では、2025〜2026年に発表された調査を参考に、今の求職者が企業のどこを見ているのかを解説します。
給与や休日を見ている点は変わらない
採用ブランディングや理念採用について考えると、「今の求職者は条件よりも価値観を重視している」と考えたくなるかもしれません。 ただ、条件が見られなくなったわけではありません。
マイナビが2026年8月に全国の20〜50代の正社員を対象として実施した「中途採用・転職活動の定点調査」では、応募・入社を検討する際に重視する情報の1位が「給与・手当・賞与」で59.4%、2位が「休日休暇・福利厚生」で46.7%でした。さらに、2026年の「転職活動実態調査」でも、転職活動者の27.9%が主な転職動機として「給与」を挙げています。
つまり、給与や休日を無視して理念だけを伝えても採用は成立しません。 特に物価上昇など生活環境が変化する中では、給与や働き方は求職者にとって現実的な判断材料です。
出典元:2026年8月度 中途採用・転職活動の定点調査 | マイナビキャリアリサーチLab
新卒ではワーク・ライフ・バランスや安定性も見られている
新卒採用でも、求職者が企業を見る軸は一つではありません。 学情が2027年卒の大学生・大学院生を対象に行った調査では、最も重視する「就活の軸」として「ワーク・ライフ・バランスを重視」が32.2%でトップになりました。 さらに、その就活軸を実現するために企業選びで確認する項目では、「勤務時間や休日など働きやすさ」が55.0%、「企業の安定性」が53.0%、「社風や社員の魅力」が38.3%となっています。給与の高さは28.2%でした。
興味深いのは、単純に「給与が高い会社」を探しているわけではないことです。 自分の生活と仕事を両立できるか。長く働けそうな会社なのか。どんな人たちと働くのか。こうした複数の要素を見ながら会社を判断しています。 中途採用では給与が強く、新卒ではワーク・ライフ・バランスが強く出るなど、対象によって重視されるものにも違いがあります。
出典元:【27卒学生調査】最重視する「就活の軸」、3人に1人が「ワーク・ライフ・バランス」。
求職者は「どんな人と働くのか」を見ている
条件だけでは見えない部分として、今の求職者が確認しているのが社風や社員の雰囲気です。 先ほどの学情の調査でも、「社風や社員の魅力」は企業選びで重視する項目として38.3%に達しています。過去のマイナビの大学生調査でも、「待遇面が良い」と「社風や働く社員が良い・良さそう」が企業選択の上位に並んでおり、条件と社風の両方を見る傾向が確認されています。
ここで企業側が考えたいのは、「風通しの良い会社です」「アットホームな職場です」と書けば伝わるわけではないことです。 求職者が知りたいのは、実際にどんな人が働き、どのようにコミュニケーションを取り、上司と部下がどのような関係を築いているのかという具体的な姿です。 社員インタビューや座談会、1日の仕事の流れ、職場で起きた具体的なエピソードなどを伝える方が、会社の雰囲気を判断する材料になります。
求職者は企業が出している採用情報をかなり見ている
「求職者は求人媒体しか見ていない」と考えるのも危険です。 マイナビの2026年8月調査では、応募・入社を検討するときに企業の採用情報を「参考にする」と答えた人は約9割でした。企業側への調査でも、求職者の反応向上に効果があったと感じる情報発信施策では「採用ホームページ」が45.8%で最も多く、「会社紹介資料」が37.9%で続いています。
つまり、求人媒体で会社を知った後に、企業自身が発信している情報まで確認されている可能性があります。 ここで採用サイトに求人票とほとんど同じ内容しか書かれていなければ、求職者が企業理解を深める材料がありません。
出典元:2026年8月度 中途採用・転職活動の定点調査 | マイナビキャリアリサーチLab
SNSでは「良く見せすぎていないか」まで見られている
SNS採用が増えたことで、InstagramやTikTok、Xなどで会社の雰囲気を発信する企業も増えています。ただ、SNSなら何でも発信すればよいわけではありません。マイナビが紹介した学生調査では、企業のSNSで発信してほしい情報として「1日のスケジュールや社員の方々の雰囲気」「福利厚生についての詳しい説明」などが挙げられています。一方で、「いいところばかり伝え、デメリットを伝えないところ」や、企業のブランドイメージとかけ離れた投稿に対しては、マイナスイメージを持つという声も紹介されています。
ここから分かるのは、求職者が求めているのは単なる楽しそうなコンテンツではないということです。会社のリアルを知るためにSNSを見ています。無理に若者向けの企画をしたり、社員に踊ってもらったりすることが採用ブランディングではありません。
出典元:就活生にマイナスイメージを持たれる企業SNSの特徴は? 「TikTokで新入社員が踊る」「癖の強い朝礼」などの声 – マイナビ調査 | マイナビニュース
求職者は企業理念も見ているのか
企業理念についても、ただ掲載すれば採用につながるわけではありません。「社会に貢献する」「人を大切にする」「挑戦する」といった理念だけを見ても、求職者は自分との相性を判断できないからです。必要なのは、その理念が実際の会社でどう表れているのかを伝えることです。
なぜその理念になったのか。社員は仕事の中でどう実践しているのか。経営者はどんな判断をしているのか。顧客にはどのような価値として届いているのか。ここまで見せることで、理念が採用情報になります。
給与や休日は「働く条件」を判断する情報です。社員や社風は「ここで働けそうか」を判断する情報です。企業理念やストーリーは、「なぜこの会社で働くのか」を判断する情報になります。どれか一つだけで採用するのではなく、それぞれを正しく伝える必要があります。
今の求職者は「何を言っているか」だけではなく「本当か」を見ている
ここまでの調査を見ると、今の求職者が確認している情報はかなり幅広いことが分かります。給与、休日、福利厚生、働き方、安定性、社風、社員、仕事内容、成長環境。そして、採用サイトだけでなく、動画やSNSなど複数の接点から情報を集めています。
ここで企業側に求められるのが、一貫性です。採用サイトでは「社員の挑戦を応援する」と書いているのに、社員インタビューを読むと裁量がほとんどない。SNSでは楽しそうな雰囲気を出しているのに、口コミでは全く違う話が出ている。説明会では理念を語っているのに、面接官の対応からその価値観が感じられない。情報源が増えたことで、こうしたズレも発見されやすくなっています。
今の採用では、魅力的なことを言うだけではなく、「本当にそういう会社なのか」まで問われていると考えた方がよいでしょう。
採用ブランディングでは「全部良く見せる」必要はない
求職者が多くの情報を見るようになったからといって、すべてを魅力的に見せる必要はありません。むしろ、自社の特徴を明確にした方がミスマッチを防げます。
スピードを求める会社なら、変化が多いことまで伝える。裁量が大きいなら、自分で考えることを求められる環境であることも伝える。顧客対応を重視するなら、その分、顧客と深く向き合う仕事であることを示す。人によってはデメリットに見える情報も、自社に合う人にとっては魅力になることがあります。
採用ブランディングは、全員から好かれる会社を作る活動ではありません。「自分には合いそう」「この会社の考え方が好きだ」と感じる人と出会うために、自社の姿を明確にする活動です。














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