生成AIは人事としてどこまで入り込めるのか。

生成AIの活用が広がり、文章作成や資料作成、情報整理など、多くの業務が効率化されています。その流れの中で、インナーブランディングにもAIを活用できるのではないかという考え方が出てきました。
株式会社BOTANICOが既存クライアント40社を対象に実施した調査では、10%が「AIを活用してインナーブランディングを行っている」または「どちらかといえば行っている」と回答しています。一方で、90%は理念や価値観の言語化は人が担うべきだと感じていたり、AIの活用方法が分からなかったりするなど、慎重な姿勢を示しました。なお、この調査はBOTANICOの既存クライアント40社を対象としたもので、日本企業全体の傾向を示すものではありません。※
では、AIでインナーブランディングはできるのでしょうか。結論から言えば、AIはかなり活用できます。ただし、AIだけでインナーブランディングを完成させることは難しいでしょう。AIが得意なのは、情報を整理し、言語化し、展開することです。一方で、社員同士の対話や感情の変化、理念に対する納得、組織文化そのものをつくることは、人が担う必要があります。この記事では、AIでインナーブランディングのどこまでできるのか、どこから人が担うべきなのかを整理します。
※参照元:【調査レポート】既存クライアントの10%がAIを活用したインナーブランディングを実施 | 株式会社BOTANICOのプレスリリース
AIでインナーブランディングを行う企業はすでに出てきている
AIとインナーブランディングの組み合わせは、まだ一般的とは言えませんが、すでに始まっています。BOTANICOの調査では、企業理念の浸透、社内向けメッセージの作成、行動指針の整理、採用や組織づくりにおけるブランド言語化などを対象に、AIの活用状況が調査されています。その中で10%の企業が、何らかの形でAIをインナーブランディングに活用していると回答しました。
具体的には、理念や行動指針の整理、経営者メッセージの構成、社員向け研修資料、社内アンケートの要約、社員インタビューの整理、社内報の企画などが、AIを活用できる領域として挙げられています。こうして見ると、インナーブランディングとAIは決して相性が悪いわけではありません。むしろ、これまで担当者が時間をかけていた情報整理や文章化をAIに任せることで、人が対話や浸透施策に使える時間を増やせる可能性があります。問題は、AIをどこまで任せるかです。
AIに企業理念そのものを決めてもらうのは難しい
AIに「うちの会社の理念を作って」と依頼すれば、それらしい言葉は出てきます。しかし、それだけで企業理念を決めてしまうのは危険です。企業理念は、きれいな言葉をつくることが目的ではありません。経営者がなぜ事業をしているのか、これまで何を大切にしてきたのか、どんな会社にしたいのか、社員や顧客にどんな価値を届けたいのかを言葉にするものです。
そこには、経験や感情、葛藤、失敗、意思決定の積み重ねがあります。AIは、与えられた情報を整理することはできます。しかし、「本当にこの会社が何を大切にするのか」を決断することはできません。たとえば、二つの価値観がぶつかったとき、どちらを優先するのか。利益を取るのか、顧客への誠実さを取るのか。成長を優先するのか、社員への負荷を抑えるのか。こうした判断にこそ、その会社の価値観が表れます。AIは候補を出せますが、最後に選ぶのは人です。
AIは理念を現場の言葉へ変換するのに使える
インナーブランディングで難しいのは、理念を作ることだけではありません。作った理念を、社員が日々の仕事で使える状態にする必要があります。たとえば、Valueとして「誠実」を掲げたとします。しかし、「誠実に行動しましょう」と伝えるだけでは、社員によって解釈が変わります。営業における誠実とは何か。接客ではどう行動するのか。クレーム対応ではどんな判断をするのか。社内コミュニケーションではどう表れるのか。ここまで具体化して初めて、理念は現場で使えるようになります。
AIは、こうした「理念の翻訳」に活用できます。自社の理念と業務内容を入力し、「営業担当者が判断に迷う場面を10個挙げ、その理念に沿った対応例を考えて」と依頼すれば、研修や議論のたたき台を作れます。接客業であれば、理念に沿ったケーススタディやロールプレイの題材を作ることもできます。抽象的な理念を、現場で考えられる具体的な場面に変換する。この領域は、AIとインナーブランディングの相性が良い部分です。
AIだけでは社員の共感はつくれない

インナーブランディングの目的は、社員に理念を覚えてもらうことではありません。社員が会社の考え方を理解し、自分の仕事とのつながりを感じ、日々の判断や行動に反映できる状態をつくることです。そこには、共感や納得が必要です。
AIが理念を分かりやすく説明することはできます。しかし、「この理念なら自分も大切にしたい」と社員に感じてもらうところまで、自動でつくれるわけではありません。社員同士で理念について話す。経営者がなぜその言葉を大切にしているのかを語る。現場で起きた事例について意見を出し合う。社員自身が「自分の仕事ではどう表れるのか」を考える。こうした対話を通じて、理念は少しずつ自分ごとになります。
AI時代ほど「自社らしさ」が問われる
少し逆説的ですが、AIが普及するほどインナーブランディングの必要性は高まると考えられます。AIを使えば、一定品質の文章や資料、デザイン、発信コンテンツを多くの企業が短時間で作れるようになります。すると、「それっぽい会社」を作ることは簡単になります。採用サイトには魅力的な言葉が並び、SNSにはきれいな文章が投稿され、経営者メッセージも読みやすくなります。
しかし、それだけでは企業同士の違いは出ません。むしろAIによって表現が均質化するほど、「この会社は本当は何を大切にしているのか」「社員はどんな判断をするのか」「顧客にどんな体験を届けているのか」といった実態の部分がブランドの差になります。
その意味で、AI時代のインナーブランディングでは、自社らしさを見つけ、社員と共有することがこれまで以上に必要です。AIに自社らしさを作ってもらうのではなく、自社らしさをAIによって整理し、伝えやすくする。この使い分けが必要になります。














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