【アドラー心理学が組織を変える 第1回】
これまでアドラー心理学は子育て論などに応用されることが多く、企業への応用は少ない。しかし以前より数多くの企業研修にアドラー心理学を応用し、「しなやかな」組織づくりを支援してきた岩井俊憲氏。50冊を超える著書があるアドラー心理学の第一人者だ。ブランド論にアドラー心理学を応用し理念浸透を推し進める「ブランド・ラクティス™」理論を構築した嶋尾かの子氏が聞き手となり、理念浸透や組織づくりに重要な考え方、在り方を聴いた。
聴き手:嶋尾かの子(むすび株式会社) 構成:BRAND THINKIKNG編集部 撮影:落合陽城
リーダーシップは横の関係で。
嶋尾:私自身もこれまでも子育てをしてきましたが、アドラー心理学はそこでの応用が進み、企業や組織への応用はまだ少ないと感じています。アドラー心理学を組織づくりに応用していくには、何がポイントになるとお考えですか。
岩井:それにはまず企業の代表やグループをまとめる上司たちにおける「リーダーシップ」を考えなければなりません。
嶋尾:アドラー流のリーダーシップですね。
岩井:メンバーが自律的で内発的であるにはどうすればいいか。ということを考える必要があります。組織はどうしても人間関係が縦の関係になりがちです。会社と会社でさえ、例えばコンサル会社とクライアントと先の企業もともすると、縦の関係になりがちです。下手すれば「勧告」なんて言葉を使いがちじゃないですか。
嶋尾:日本の組織はどうしてもそうなりがちです。
岩井:私は常々言っているのは、権威や恐怖によるマネジメントはもうやめようということです。アドラー心理学の基本的な考え方である、信頼、尊敬、共感を持って、一人ひとりが会社と自分のビジョンに向かって行く。そういう統合分散型の組織を目指すべきだと思うんですね。一人ひとりの自律、セルフコントロールをいかに利かすことができるか。だとすると、リーダーはヨコから目線がいい。他者がコントロールする上下の関係ですと、権威や恐怖によるマネジメントになり、統合分散型の組織にはなり得ないんですね。
目的と目標の違いを認識せよ。
嶋尾:アドラー心理学を考えるとき、組織の目的と目標の違いをしっかりとマネジメント層が認識しておくことは、とても重要であると感じています。
岩井: この2つを混同して取り違えている人が多いと感じています。アドラー心理学の軸になる「目的論」とは「なんのためにするのか」ということ。目標は組織では例えば売上50%アップとか、具体的な数値目標で語られることが多いですね。
嶋尾:組織ではどちらも大事ですが、目的を共有するのはなかなか難しいですよね。忘れがちというか…。
岩井:組織は効率よく売上をあげていきたいですから、どうしても生産性を上げることに向かいがちなんです。でも人間の心を無視して生産性をあげていくと、不具合が出ることが多い。そうなると目標=ノルマとなって、どんどん人が疲弊していきます。その中で「なんのためにするのか」をか確認していくことが重要で、それがある組織というのは、人に対しての信頼、尊敬、共感がある状態ですから、全従業員での協力的な関係が築けると思うのです。
価値観の違いを超えて、チームになる。
嶋尾:私たちは研究の中で、信頼、尊敬、共感のある組織は、共同体感覚が生まれ、理念浸透が進むと定義しています。
岩井: 気をつけないといけないのは、共同体感覚で、単なる仲良しチームではないことです。チームには価値観の違う人がいるのは当然で、そこにお互いの信頼、尊敬、共感があるからこそ、その価値観の違いを認め合う本当のチームワーク(=共同体感覚)が生まれると思います。
嶋尾:絆を持って有機的につながるのが共同体感覚なのですね。
岩井:チームの中で、「あいつには負けたくない」とか、競争が生まれてもいいのです。価値観の違いを超え、絆や縁の感覚が強くなるならば、それは共同体感覚なのではないかと思っています。
(つづく)
岩井俊憲(写真右)
有限会社ヒューマン・ギルド
代表取締役
1947年、栃木県に生まれる。早稲田大学卒業。外資系企業を経て、1985年有限会社ヒューマン・ギルドを設立。中小企業診断士、上級教育カウンセラー、アドラー心理学カウンセリング指導者。ヒューマン・ギルドでカウンセリング、カウンセラー養成や公開講座を行うほか、企業・自治体・教育委員会・学校へカウンセリング・マインド研修、勇気づけ研修、リーダーシップ研修や講演を行う。「勇気の伝道師」をライフワークとしている。『人を育てるアドラー心理学』(青春出版社)、『「勇気づけ」でやる気を引き出す!アドラー流 リーダーの伝え方』(秀和システム)を含めてこれまでの著書は50冊以上。
理念浸透を促進する「ブランド・プラクティス™」理論については、日本ブランド経営学会BRAND CONFERENCE(10/26開催)にて、嶋尾かの子氏が登壇し、発表します。
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