経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説|ブランド シンキング

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経営に正しいブランディングを。わかりやすく解説

【前編】インナーブランディングにより1年で会社が劇的に変化した話。キーワードは「パーセント雇用」。

スペースRデザイン前編01

株式会社スペースRデザイン 代表取締役 𠮷原勝己

「築100年」を目指し、築年数や広さなど一般的な賃貸査定にとらわれない新しい住まいの価値を提案している(株)スペースRデザイン。リノベーション業界の先駆け的存在であり、毎年開催されている「福岡DIYリノベWEEK」は、DIYフリークの人たちのみならず地元の人びとや移住検討中のひと達に本当の豊かな暮らしについて一石を投じ続けている。しかし実は、リノベーションブームのときに企業として最大のピンチを迎えていた。経営者として数年も悩み続けたその背景と、そこから脱却できた打開策とは。インナーブランディングを実装したこの1年の劇的な変化を数字とともに振り返っていただいた。

(聞き手・文・撮影:フルカワ カイ)

賃貸リノベーションブームの仕掛け人として新たな不動産価値を提案

ーー経営の話になりますが、そもそもなぜマーケットが未開発な時代に、賃貸物件のリノベーションに価値を見出せたのでしょうか?

𠮷原)はじまりは私の父がガンを患い、賃貸ビル経営者として創業していた会社(𠮷原住宅有限会社)を事業承継したときからです。それまでは製薬会社で新薬の開発や臨床研究をしており、まったく違う業界にいました。ですが自社ビルも4棟あったので解散するには勿体ないなと感じて異業種から飛び込んだのですが、持ちビルはどれも古くて、会社経営もあと5,6年でダメになる見通しでした。そこでまず当時には珍しい、オーナー自らが仲介会社に営業し、空室を埋めていく営業から始めたのですがオフィスは埋まっても、住居になるとそうはいかなかった。バランス釜など設備が古ければ入居希望の対象からすぐに外れてしまう。それならば改造するしかない、顧客確保の解決策としてリノベーションに行き着いたのが最初の流れです。

スペースRデザイン前編02福岡の中洲エリアにある「冷泉荘」は築61年を超えるレトロビル。
軍艦島の保全にも検討されているコーティング材であえて外装をそのまま残しつつ補強。以前はスラムのような物件を新たな文化発信拠点としてリブランディング。いまでも入居希望者が絶えない。第25回福岡市都市景観賞 活動部門にて部門賞受賞。

スペースRデザイン前編03 賃貸リノベーションの第一号である山王マンション。45室中32室を改装しているが、外壁や共用部はもともとの素材を補強して大切に使い続けている。
築58年を迎えようとしているが、古さと新しさのミックスの唯一性は年を追うごとに魅力を増している。未だに𠮷原さんが塗ったペンキ跡も現存。

 

ーー先代の持ちビル再生が、リノベーション賃貸のきっかけだったのですね。

𠮷原)そうですね。私が不動産業界に関わり始めた2000年頃はまだオーナーの経営意識が今よりもずっと低く、ビルを持てば入居者が現れるだろうとあぐらをかいていた時代でした。しかし経営難に陥り、福岡でも空室問題が出はじめた。なので事業自体を組み立てるいいチャンスだなと感じましたね。そこで営業活動やリノベーションと、当初では異例の行動を起こしたんです。

ですが当時はリノベーション概念が日本にはなくて、仲介会社も値付けをどうしていいか、まったく解らなかった。改装後の部屋を見ても、築年数と面積は一緒だからリノベーション後も家賃は以前と同価格で、と驚きの連絡を受けたんです(笑)。ああ、これではダメだな、リノベーションの価値が広がらない。それで、自分自身で仲介会社を立ち上げることにしました。それが株式会社スペースRデザインですね。

ーーなるほど。今のメイン事業はビル会社のコンサルタントですよね。

𠮷原)はい。スペースRデザイン立ち上げまでは、自社物件で検証をして、その結果、賃貸ビルのイノベーションを起こせてフレーム化もできたので、仲介・コンサル業で分社化しました。ブームの火付け役として講演会で登壇する機会も多かったのでオーナーからのご相談は起業当初から多かったですね。特に古い建物のオーナーは、供給過多で需要が逆転して経営に困っているひとがとても多かった。古い建物は様々な工夫が必要で、個人で経営するには難易度が高めです。その点、自社ではマーケットまで抑えいるので一社で賃貸オフィスや戸建ての再生への糸口を見つけることが可能です。ワンストップで賃貸ビルを再生する会社というのは国内でも相当初期だったのでオーナーからの注目度は一定数いただいてます。

スペースRデザイン前編042008年4月、𠮷原住宅有限会社よりリノベーション部門事業化とともに不動産再生コンサルティング事業として株式会社スペースRデザインを設立。

スペースRデザイン前編05経営に悩むビルオーナーに対し、ワンストップで本来の物件の価値と経営者の想いをMIXして新たな市場の創出を行う。

ビジョンは「築100年」の建物をまちに残し、入居者の新陳代謝を促す。

𠮷原)私たちは「築100年」を命題に掲げ、まずは目の前の満室化、併せて10年20年と続く経営体質を構築していきます。それを通じて、単なる賃貸物件を所持するだけのオーナーから、経営者としての成長をサポートしています。賃貸が分譲と違って面白いのは、常に入居者の新陳代謝が起こることです。入居者が入れ替わることでまちも老朽化しない。大事なのは、良い人のトルネード(循環)を生み出す流れをつくる仕組みづくり。建物を通じた暮らしに引力があれば、どんどん面白い入居者が自然と集まってきます。そこで社会も経済も治安も良い方向へと進んでいく、プラスのベクトルが生まれていきます。

ーー不動産物件もブランディングが肝となるんですね。

𠮷原)そこは「てこ」の原理だなと感じていますね。お金で動かす経済概念と、お金の代わりとしてあるビジョン×時間の分量は等しいと思ってます。

スペースRデザイン前編06既成概念をどんどん打ち破りながら不動産業界を新たな視点で牽引していく𠮷原さん。しかしひそかに、リノベーションブーム最中の2016年に会社経営の危機を迎えた。

経営者として迷いの時期に突入。社員の退職で一気に社内不安が広がる。

ーーブームの最中に経営危機が訪れたんですか。驚きですが、なぜそのような状況に陥ったのでしょうか。

𠮷原)私はもともと会社は大学院経営のスタンスを持っていました。自ら動き仕事を通じて研究を進めて最後は卒業して行くようなイメージですね。私はあくまでもプロデューサーの立場であり、お互いがフラットな関係でありつつ各々のプロジェクトを進めていたのですが、ある日、ほぼ同時期に設計施工担当の2名が退職して第二のステップに進んでしまいました。当時は社内で彼らと同等の専門性を持っている人が一人もいなかった。そこで一気に社内に不安が広がったんです。

ーーかなり経営に支障が出たんですか。

𠮷原)はい。ご依頼をほぼ断ってましたので、会社を閉じないといけないな、と覚悟までしていた程です。ブームにも乗れないもどかしさもあり、せっかく独立した社員の方と会社との関係も、うまくやれない状態に陥ってしまいました。

このような考えでは大学院経営が絵に描いた餅になる、その危機感で日々頭がいっぱいでした。2年間はその状態が続いてましたね。

ーーそんなご苦労が……。それで実際、𠮷原さんはどのような行動に出たのでしょうか。

𠮷原)それが……特に何もしてなかったんですよね……。覚悟はできていたのですが完全に悩みの時期にはいってしまって、ただただ苦悶する時間を過ごしてました。

ーー2年悩み続けるのは、相当きびしいですね。

𠮷原)不安を取り除こうと社内文化を作ろうとは思っていたのですが、これといった打開策がなくて。大変でしたね。

超短時間雇用として「パーセント社員」を採用。新しい働き方で会社が息を吹き返す。

ーーそこからどう、脱却の糸口を見つけたのでしょうか。

𠮷原)そんな時期に声をかけてくれたのが福岡テンジン大学の岩永真一さんでした。彼は天神のまちを大学のキャンパスに見立ててコミュニティ運営をしている方で。私も不動産(ハード面)から暮らしを通じて入居者(ソフト面)のブランドが育つことが理想だと思ってましたのでコミュニティに共感できることが多く、よく一緒にランチをしながら意見交換したり、プロジェクトを一緒に進めていました。それをきっかけに「うちで超短時間労働の発想から生まれた、新しい雇用契約で働きませんか?」と声をかけました。

スペースRデザイン前編07超短時間雇用:規定の労働条件にとらわれず、相手のコミットできる時間に沿って働いてもらう制度のこと(東京大学の近藤武夫准教授が提案)。𠮷原さんは、100%のうち何%の労働日数で勤務できるかを事前に相談し「10%正社員」「20%正社員」など新たな雇用条件で専門領域の人材を雇い入れ、不穏な空気の流れる社内を変えた。

ーー「パーセント正社員」の雇用でどんな風に変わったのでしょうか。

𠮷原)岩永さんが入社してくれて1年半が経ちますが、悩みの時期が100だとしたら、いまは30位まで減りました。それだけ社内の雰囲気が一変したんです。自分たちが何が強みで、何がゴールなのか。それまで曖昧だったことが、うまく見える化できるよう、仕組みを作ってくれたんです。そのお陰で社内の不穏な空気がなくなり、私自身も、社員の気持ちが理解できるようになった。とても大きな変化となりました。岩永さんに声をかけたときには想像もつかなかったです。

ーーパーセント正社員によってインナーブランディングが実装、効果に繋がったのですね!

𠮷原)はい。自分たちには手が届かない、できない分野を専門スキルの高い方が手伝ってくれるので、非常に安心感がありますね。また「パーセント正社員」という雇用形態により、外部委託よりもずっと深い、仲間意識で話せるので情報共有がスムーズにできます。パーセント社員の人は「外から内へ」、常駐の社員は「内から外へ」と気持ちの矢印が向けられたことが大きいですね。具体的に数字となって現れたことは私自身も驚きでした。

(後半へ続く)

<プロフィール>
𠮷原 勝己

・株式会社スペースRデザイン 代表取締役 
・𠮷原住宅有限会社 代表取締役
・NPO法人福岡ビルストック研究会 理事長
・福岡県中小企業家同友会ソーシャルビジネス委員会まちづくりビジネス本部長
・これからの大家の新しい仕事 「九州産業大学 建築都市工学部」「不動産学入門(非常勤講師)」

2000年老朽ビルによる経営危機の𠮷原住宅を継いで以来、老朽化するビル事業の再建に向け、2003年博多区「山王マンション」から賃貸リノベーション事業に取り組む。そのビル再生過程で、ひとのつながりが生み出されることに着目し経年優価「ビンテージビル」の概念を確立。

株式会社スペースRデザイン 公式ホームページ:www.space-r.net

フルカワ カイ

SIGN 
フルカワ カイ

SIGN主宰。「お互いを認め合い、彩りのある社会を作る」をビジョンに点と点を混ぜるような活動を行う。地域に根ざした、編集、ライター、ブランディングを通じてペンのチカラで多様な社会を実現していきたい。地域活性にまつわる記事執筆のほか、ブランディングやコピーライティングも担当。noteではビジネス小説も執筆中。

SIGN

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